財団法人深田地質研究所年報 第2号 2001
要旨:CCOP-CPCEMR-IUGSの共同事業として進行中の東・東南アジア数値地質構造図は,2000年3月にマレーシア・インドネシア・フィリピンを主とする南半部がCD-ROM の形で出版された.残る北半部の編集作業は現在最終段階に入っている.地質構造図編集の第一歩として対象地域の地質構造区を設定する必要があるが,北半部についての作業もほぼ終了した.この数値地質構造図の編纂はCCOP加盟国から指名された委員による編纂ワーキンググループが行っており,構造区の設定も各委員によって原案ができたいた.しかしその後数値化作業が進行している間に研究・調査が進み,その結果原案の改正が必要になる場合が起きたり,総合編集の段階でしばしば隣接区域との調整をはかる必要が起きた.この報文では,本年度の作業として行った北半部構造地域区分の修正結果を紹介し,そのおのおののテクトニックの性質をおおまかに要約して示した.また,図上に最小単位として表される層序・構造単位とその累重関係を図表で示した.この情報は一般の地質の記載で用いられる地質柱状図の形をとるが,表す内容はそれとは異なり,同一のテクトニックの性質をもつ層序のかたまりを単位をして表すように工夫し,この図表をみるだけで大まかな構造発達史が読みとれるように設計してある.
キーワード:地質構造図,東アジア,東南アジア,構造地域区分,層序・構造単位,数値地質構造図,CCOP.
(p1-5)
要旨:地形解析における斜面の基本の1つと考える三角斜面について,その7(2000) で青森県下北半島の「出戸」地区に分布する大集合三角斜面の形成時期(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,ⅣおよびⅤ期)を推定し形成断面を作成した.今回はその5(1998b) の大集合三角斜面のうち,「薬研温泉」,「奥多摩」および「伊予市東方山地」の3地区を取り上げ形成時期について推定を行い,古地形図を作成した.キーワード:三角斜面、形成時期、地形解析.
(P14-41)
要旨:九州ーパラウ海嶺の駒橋第二海山から採取されたラミナの見られる半遠洋性堆積物のコアの物性値と帯磁率異方性とならびに残留磁気を測定した.その結果,ラミナを構成する磁性鉱物粒子は南西→北東と南東→北西方向に配列していることがわかった.前者はタービディティーカレント,後者は底置流によって堆積した堆積物であるかもしれない.
Keywords: Kyushu-Palau Ridge, turbidite, contourite, magnetic susceptibility, current direction.
(p42-50)
要旨:北海道の白亜系は多くの研究者によって繰り返し研究されている.残念ながら幾春別川流域の標式的な白亜系露出地域は現在ダムによって水没してしまっている.筆者がかつて行った調査報告に書き漏らしたAcanthoceras 類の層準とSubprionocyclus 群集について記述する.また桂沢湖の濁水問題は,ダムサイト選定時には湛水域の基盤岩質の考慮が重要な点,およびダム湖完成後は周辺道路建設工事の適切な管理が必要な点を示唆している.
キーワード:北海道,幾春別,白亜系,アンモナイト,ダムサイト.
(p51-66)
要旨:土岐花崗岩中に発達する節理の終点と交差部を,顕微鏡下で観察した.節理の終点には形態的な違いと充填鉱物の種類の違いで識別される2種類の終点が存在し,これは形成深度の違いを示していると考えられる.ここに紹介する新しい手法によって節理交差部の試料採取が可能になった.顕微鏡下の観察から交差した節理の形成順序が推定できそうである.
キーワード: joint, joint termination, joint intersection, filling, granite
(p67-90)
要旨:2年度の地質断面図の作成は,深田地質研究所と明星学園との10回の打ち合わせを行い,土質ボーリング資料の収集,文献の収集,地形面の特徴,既往文献による層準の検討,野外での地形・地質巡検・水質調査および新聞資料のファイル作成などを行った.今回は東西方向地質断面のうち4地区(小金井・三鷹・本駒込および荒川)の地質断面図の作成,地質関連事項の要約といくつかの意見および水質調査について報告する.
キーワード:地質断面,東京,地質.
(p91-120)
要旨:東北地方南部の会津地域に密集して分布している8個のカルデラについてそれらの地質構成と大規模地すべり地形との関係を考察した.これらのカルデラは後期中新世から中後期更新世にかけて形成され,その地質構成はほとんどのカルデラにおいてカルデラ形成期の火砕流堆積物,後カルデラ期の湖成堆積物,これと指交関係ないし上載する火山岩からなっている.しかし,それぞれの形成時期および削剥深度が異なることから失われたものもあり,また,地表に現れていない場合もある.大規模地すべり地形はこれらの構成物のうち,湖成堆積物かあるいは湖成堆積物の上位に火山岩が載る地質構成の場所に顕著に発生している.湖成堆積物のなかでは,シルト岩に富む層準に多発しているが,しかし,固結程度の低い場合には砂岩の層準にも発生している.カルデラ形成期の火砕流堆積物の露出地区では大規模地すべり地形はきわめて稀である.この場合,カルデラの再生ドームあるいはその他の原因による隆起とあいまってカルデラ堆積物の削剥深度が大きくなっている場合である.
キーワード:大規模地すべり地形,カルデラ,湖成堆積物,火砕流堆積物,再生ドーム隆起,削剥深度
(p121-135)